感想・批判の分類

ある研究者の方から質問をいただきました。その先生は授業で批判的思考を教えておられ,学生に,(科学的に見たら)不適切な新聞記事を提示し,感想(批判)を書かせているのだそうです。その感想を分類整理したいのだが,これと類似の先行研究をご存じないだろうか,という問い合わせでした。次のようにお答えしました。

とりあえず思いついたものだけお伝えしておきます。

まず,(批判ではなく)「疑問生成」ということに関しては,大河内祐子さんが中心となって,いくつか学会発表されていますね。論文化されたものは,「読書科学」誌の2001年に載っているようです。

彼女の一連の発表の中には,疑問を「分類」したものがあります。日心(2000),教心(2000。ファーストは大村先生)などがそうのようです。このうち,日心(2000)だったと思うのですが,私はその発表を聞いて,自分の学会発表のヒントにしたことがあります。こちらです(授業後に書かせる質問を,KJ法を用いて分類しました)。

また,私が行った,大学生の批判的思考の実態に関する研究(教心研, 2001)では,大学生の批判を点数化しているわけですが,その予備研究として,文章に対して大学生が書いたコメントを分類して,それをもとに点数化の基準を作りました。その予備研究に当たるものが,こちらの紀要論文です(ちなみにこのころは,タイトルに「批判的思考」という語の入った論文をともかくたくさん作りたかったので,内容は決してレベルの高いものではありません。人に紹介するのは気が引けるのですが,批判の分類のサンプルとしてご覧下さい)。

疑問の分類ということに関しては,広島大学の沖林洋平さんが行っている研究でも,確か,被験者が出した疑問を分類していたのではなかったかと思います。沖林さんの業績一覧は,こちらからたどれます。

それから,「批判」を直接に扱ったものではないですが,「議論」(アーギュメント)に関する論文は,参考になるのではないかと思いました。私の手元には,アーギュメントに関する日本語のレビューが2つあります。

  • 富田英司・丸野俊一 2004 思考としてのアーギュメント研究の現在 心理学評論, 7, 187-209.
  • 大河内祐子 2000 論説文におけるアーギュメントの理解 東京大学大学院教育学研究科紀要, 40, 131-138.

特に前者は,これまでのアーギュメント関連の諸研究が,アーギュメントを評価するに際してどこに着目しているかを一覧表にしています。そこに見られる視点は,批判を分類する上でも役に立つのではないかと思います。



お答えしたのは以上ですが,その先生から,野矢茂樹さんの「批判と異論」,香西秀信さんの「論証型反論と主張型反論」という区分が使えるかも,というご返事をいただきました。そういう観点でいうならば,「強い意味の批判的思考と弱い意味の批判的思考」(Paul)なども候補として挙げられるかもしれません。