批判的思考の測定

ある研究者の方に,

ある講義の中でクリティカルシンキングについても入れてゆきたいと考えています。そうした講義がどの程度効果があるかを知るためには,クリティカルシンキングの力を測定するテストが必要になります。道田先生はクリティカルシンキングの能力を測定するのに,どのような方法を採られていますか?

というメールをいただいたので,次のような返事を差し上げました。

私が自分の授業でどうしているかということであれば...やっていないですね,測定といえるようなものは。

とりあえず一般論で言うならば,その授業でつけさせたい力がどんなものであるかを,「批判的思考」という語を用いずに,具体的に(←この2つが重要です)定義し,それがもっともよく測定できるのは何かを考えるのがいいと思います。つまり,批判的思考という語は,こういう場合は,かえってジャマになると思うのです。

というのは,批判的思考の定義なり概念にはさまざまなものがあるからです(そのことは,心理学評論*1に書きました)。そのことを反映しているのでしょうか,たとえばWGCTAというテストとCCTTというテストの相関は,.48でしかないそうです(WGCTAとWAISの言語性知能の相関は.55です)。批判的思考は,領域普遍の一般的抽象的能力ではないと考えるのが妥当だと私は思うわけです。

ですから私の考えは,「その授業でつけさせたい力」を考えて測定すべきだ,というものです。何を教育するかというと,当然「その授業でつけさせたい力」を念頭において教育するわけですから,まとめて言ってしまうと,「その授業でやったことを測定する」というごく当たり前の結論になるわけです。

もっとも,授業内容の再生を目的に測定するわけではないでしょうから,多少なりとも授業内容とは異なる測定を行うことになるのでしょうが,それをどの程度異なるものにするのか,という問題があるわけです。それは批判的思考教育に特有の問題ではなく,どの教育にもいえることだし,そこで考えるべきは,批判的思考そのものよりも,転移や類推の問題になるのではないかと思います。

*1:道田泰司 (2003) 批判的思考概念の多様性と根底イメージ 心理学評論, 46, 617-639.