批判的思考の概念

とある方に,次のような質問を受けました。

批判的思考力の定義や解釈について、批判的思考の知識、技能、態度にはどのような具体的な下位項目があるのでしょうか?

 このことに関しては,詳細な議論は,道田(2003)*1に書いていますので,よろしければごらんください(なお,批判的思考態度の代表的なリストは,こちらのページにも載せています)。

 ただし,この論文で分かるのは,「人はそれを何だと考えているか」(これまで批判的思考研究者は,批判的思考を何だと考えてきたか)です。また,この論文に引用されている,あるいはその他の批判的思考概念に関する論文で分かるのは,「その論文の筆者は批判的思考を何(であるべき)と考えているか」であって,それ以上でもそれ以下でもありません。

 しかし大事なのは,「私にとって,批判的思考という語を用いて求めようとしているものは何か」だと思います。この問いを考える上で第一に必要なことは,教員であれば,目の前の学生たちを見ながら,「この子たちにとって必要なものは何か」を考えることであって(もうすでに十分考えられていると思いますが),そこから離れて,「批判的思考とは何か」を探し求めることは,あまり意味のないことなのではないかと思います。

もちろん,上記の問いの答が,結果的に,これまで研究者や教育者が「批判的思考」という語で考えてきたものと重なるのであれば,彼らを批判的思考どのように捉えてきたかを知ることは,上記の問いを考える上で大きなヒントになるでしょう。しかしそれは,上記の前提(私の問いの答え≒批判的思考)が満たされて初めて言えることです。それを抜きにして批判的思考という語を用いて考えようとすると,本当に考えるべき問いが見えなくなってしまうと思います。

 そういう意味で私は,「批判的思考という概念はなくてもいい」と思っています。そのことについては,こちらに詳しく書いていますので,よろしければごらんください。

*1:道田泰司 (2003) 批判的思考概念の多様性と根底イメージ 心理学評論, 46, 617-639.