弱い意味の批判的思考

とある院生の方から次のような質問を受けました。

道田(2005)*1には、「弱い意味の批判的思考」に陥る原因については論述されていないようにおもいますが、論述されない特別の理由をお聞かせいただけませんでしょうか? またそのような研究をされている研究者はおられるでしょうか?

あの論文は,「弱い意味の批判的思考とは銘打たれていないけれども,あちこちで見られる弱い意味の批判的思考的な事例を集めてみた」という程度の内容ですので,原因を考察することまでは考えていませんでした。

弱い意味の批判的思考という語でその原因なりを研究している研究者は知りませんが,そういう語を使っていないのであれば,あちこちにたくさんおられるのではないかと思います。

たとえば,信州大学の菊池さんは,人間の本来的な傾向(認知システムの性質)から来るものだというように考えていると思います。

その他,社会心理学で言うならば,権威への服従,同調,役割の内面化,傍観といった研究で指摘されているようなことは,結局,弱い意味の批判的思考的な行動を導くものだと思います。それは一言で言うならば「状況の力」ということになるでしょうか。そのほかにも社会心理学では,たとえば集団浅慮(groupthink),正常性バイアス,などという概念も提出されています。

ほかの領域でも弱い意味の批判的思考に該当するような研究はおそらくあるだろうと思いますが(たとえば楽観主義?),今のところ思いつくのは上に書いたものぐらいです。


なお,弱い意味の批判的思考と対になる概念である「強い意味の批判的思考」については,こちらに書きましたのでご参照ください。

*1:道田泰司 2005.02 強い意味の批判的思考に関する覚書 琉球大学教育学部紀要, 66, 75-91.