ロジカルシンキングと論理学(2)

前回の続きですが,論理学の話に行く前に,もう少しビジネス系ロジシンの話を書いておきましょう。というのは,前回書いた「液晶プロジェクタが写らない」話は,内容がビジネスっぽくないし,ビジネス系クリシンのやり方そのものではないと思いますので。

今回取り上げるのは『世界一やさしい問題解決の授業』(渡辺, 2007)世界一やさしい問題解決の授業―自分で考え、行動する力が身につくに挙げられている仮想事例です。この本は簡潔ながらツボを押さえた感じで分かりやすく,ビジネス系ロジシンの入門としては最適ではないかなと思っています。

この本には「ロジカル」「論理的」という言葉は出てきませんし,「ロジックツリー」「MECE」という言葉も出てきません。しかし筆者はかつてマッキンゼー(東京,ニューヨーク)で働いていた方だし,あとがきには「問題解決能力に似たクリティカル・シンキング(批判的思考)は……」(p.112)と,批判的思考と問題解決をリニアイコールで論じています。また,「ロジックツリー」は「分解の木」という言葉で紹介されていますし,そのなかで「モレやダブリ」についても触れています。つまり本書は,ビジネス系ロジシン(クリシン)の本だと言えると思います。

まずはこの本でいう「問題解決」について押さえておきましょう。これについては,次のように書かれています。

問題解決とは,ひらたくいえば,「現状を正確に理解し」「問題の原因を見極め」「効果的な打ち手まで考え抜き」「実行する」ことです。(渡辺, 2007, p.19)

ではこの本で「分解の木」(ロジックツリー)はどのように紹介されているでしょうか。

問題解決をするときには,「分解の木」が役立ちます。これは,どのような原因があるかをモレなく探し出すときや,どのような打ち手があるかアイディアを幅広く,具体的に洗い出すときに重宝します。(渡辺, 2007, p.26)

つまり,分解の木は,(1)原因探索,(2)解決策の洗い出し,の2つの使い方があることがわかります(このことは,たいていのビジネス系ロジシン本に書かれています)。

では原因探索において,分解の木はどのように使われるでしょうか。本書の前半では,観客が集まらない中学生バンドが客を集める,というストーリーを通して,問題解決のやり方について紹介されています。

問題の原因としてありえるものを洗い出すために,分類の木を使って,状況が分析されています。その結果,4種類の人がいるという結論になりました。すなわち,(A)そもそもコンサートを知らない,(B)コンサートがあることは知っているが行ったことはない,(C)コンサートに1回行ったことがあるが継続的には来ない,(D)コンサートに継続的に来る,の4種類です。

そこで,学校の生徒と先生500人が上記の(A)〜(D)にどれぐらいずついるか,仮説を立て,実際に調査をし,なぜ来ないのかとか,今後も来るのかといったことを,何人かにインタビューしました。調査の結果,(A)コンサートを知らない人が一番多い(7割)けれども,(B)知っているけれども来ない人が意外に多い(3割弱)ことが分かりました。

そこで解決策の洗い出しです。第一に必要なのはコンサートがあることを伝えることだということで,伝える方法を「分解の木」を使って広く洗い出しました。まず,媒体として,人,紙,掲示板,テレビ,ラジオ,電話,ファックス,インターネット,CD-ROM,その他,と挙げ,それぞれをまた具体的に洗い出していきました。たとえば「人」であれば,「自分たち」と「他人」に分け,「他人」を「学校関係」と「その他」に分け...という具合です。そのなかで,効果的で実行しやすい,最適な打ち手を複数選び出し,実行プランを立てて実行する,という具合です。

このように本書では,おそらく経営コンサルタント会社がビジネス系ロジシンのツールを駆使してやっているであろうこと(のさわり)について,ビジネスの知識がない人でもよく分かるように書かれています。

    • -

そしてこの2つの「分解の木」の使われ方を見て私が思うのは,「これはどういう意味でロジカルなんだろう?」という疑問なのです。(続く)