キャリア・デザインと思考(3)−人生をサイクルとして考える

昨日に続く第3回。『働く人のためのキャリア・デザイン』の第2章を読みました。

この章では、キャリアは安定期と移行期の繰り返しだ、というトランジション・モデルが紹介されています。たとえばニコルソンの円環サイクル的なモデルは次のようなものです。

(1)新しい世界に入る準備(preparation)段階、
(2)実際にその世界にはじめて入っていって、いろいろ新たなことに遭遇する(encounter)段階、
(3)新しい世界に徐々に溶け込み順応(adjustment)していく段階、
(4)もうこの世界は新しいとはいえないほど慣れて、落ち着いていく安定化(stabilization)段階(p.p.84-85)

このようなサイクルや段階の考え方は、発達心理学ピアジェエリクソンなど)にも見られるものですね。実際同書にも、「前の段階をいかに過ごしたかがつぎの段階のくぐり方に大きく影響を与える」(p.92)という記述があります。

思考との関連で段階論が興味深いのは、段階によって思考のあり方が異なっていたり、各段階での思考が次の段階に影響を受ける、という点です。

このサイクルがうまく回るときは、(1)現実的な期待を持って準備を行い、(2)新しい世界でのことを適切に意味づけ、(3)状況に応じた自己変革・成長を行いつつ対人ネットワークを形成し、(4)目標に対して工夫しながら仕事をうまくこなせるようになっていく、という感じの善循環がおきます。

逆にこのサイクルがうまく回らないときにはたとえば、(1)準備段階で、現実離れした過度な期待を持ってしまい、(2)遭遇段階で、現実に対して「こんなはずではなかった」とういとまどいから躓いてしまい、(3)適応(すべき)段階で、無理して状況に合わせようとして不平がたまり、(4)安定段階で、うまく行っていないことをなんとか隠そうとする(そして次の異動に際して自信や意欲を失ってしまう)、なんていう悪循環になってしまいます。この悪循環は、思考という観点から見ると、思考のバイアスが元で次の思考バイアスを呼び、自己防衛的に現実を否認しているように見えます。

こうやってみるとどの段階でも、現実や将来を見据えて適切にその都度生じる課題を理解したり解消したりする、という思考が必要だと言えそうですね。

なおこのサイクルと、「キャリア・デザイン」の関係について、筆者は次のように書いています。

節目だけはデザインしようという本書の主張は、これまで述べてきたサイクルのなかをうまく生きることだけでなく、あるサイクルから別のサイクルへの移行の時には、デザインの要素をもってそれに挑むことのすすめでもある。それさえしっかりできていれば、あとは流されていてもよい。(p.105)

これを見ると、キャリア・デザイン=大局的な思考(大局的に、過去や将来を見据えてデザインし直す思考)、サイクル中=状況に応じたその都度の思考、という感じなのでしょうか。このように、思考を大局的、状況的に分けて考えるのも、キャリアのみならず日常の問題解決や意思決定においても必要な気がします。