教師が飛躍するとき(2)−思いや行動を可視化する

前回に引き続き、『教師が飛躍するとき』という本を読んでいるのですが、他の章では、たとえば「赴任校で教師同士が磨き合う雰囲気があったので成長できた」みたいな感じのものが多く、「考えることについて考える」ことにつながるものは、なかなか見当たりませんでした。

しかしようやく、それらしいものが見当たりました。それは本山明先生の「教師としての原体験」という論考でした。本山先生は中学校の先生、初任校は荒れた学校でした。2年目に、職員の多くが参加した、非行対策の合宿があり、徹夜で討論して対策が考えられたといいます。

そこで「(1)ツッパリたちとのパイプづくり、(2)リーダーづくり、(3)全体の学力の向上」(p.134)という取り組みポイントが話し合われたようです。それを踏まえて、聞き取りを行ったり、文化祭で劇を行って雰囲気がよくなったり、ということがあったようなのですが、一番興味深かったのは、生徒会の手によって行われた全校クリーン作戦でした。

まず、公共物を破壊しない、校舎に落書きしない、美しい校舎にする、という3項目に署名が集められ、過半数の生徒が署名し、署名者の名前が校舎に貼りだされました。この続きは、引用をしましょう。

朝の宣伝もハンドマイクを使って行われました。十メートルの幅で、三メートルの大きさのたて看板を背にし、生徒会の役員たちが訴えます。
「学校をぼくらの手でつくり変えよう」と。
 クリーン作戦の当日には有志をつのり大掃除と大修繕が行われました。七百五十人の生徒のうち二百五十人が参加し、決起集会が体育館で開かれました。
「私たちの手で学校を美しくつくり変えよう」
「オウ!」
というシュプレヒコールのあと、生徒と教職員全員が体育館から飛び出しました。放送委員は、十五分ごとに「二年三組のドアの穴がふさがりました」などの途中経過を校内放送で流しました。写真部は、スライドフィルムでその様子を撮り、音声もつけ、他校への取り組みを普及するための二十分のスライドを作りました。(pp.136-137)

この全校クリーン作戦で興味深いのは、前回のものと同じく*1「一人ひとりの思いを可視化」している点です。それは、過半数の生徒が書いた署名を校舎に貼りだす、というところです。また、掃除や修繕の経過を放送した、というくだりは、一人ひとりの「思い」だけでなく「行動」(行動結果)を可視化しているわけで、これも似ていますね。

もちろんここですべて終わったわけではなく、特定の問題児に焦点を当てた取り組み(たとえば同級生が授業のノートを取って彼に届ける、など)が次年度も行われていくわけですが、ここでの経過を前回の今泉先生のものとも重ね合わせて考えてみると、まず導入的な取り組みがあり*2、次の一人ひとりの思いや行動を可視化しつつ事態を改善していくような取り組みがあり、さらにその後に継続的な、あるいは焦点化された取り組みが続けられていくなかで問題が解決していく、といえるのかなと思いました。

もう1ついうなら、アクションを起こす前に、合宿に関係者の多くが参加して話し合い、問題や解決策を徹底的に話し合っている点も重要かもしれません*3。この点、前回の今泉先生の場合は、関係者が彼一人でしたので、「話し合う」ではなく、「できそうなこと、効果のありそうなことを、期を見ながら試行錯誤的に行っていく」という形になっていました。良い案にたどり着くためには、じっくり話し合うとか、試行錯誤を重ねるといったことが必要なのかもしれません。

*1:前回のものとは違った形で

*2:今回の場合それは、関係づくりを目指した取り組みと言えるかと思います

*3:もちろんそれまでも話し合いは行われたでしょうから、この場合、合宿と言う日常から離れた空間で、時間を気にせずに話し合ったことがよかったのかもしれません