クリティカルシンキングで決断

クリティカル・シンキングによる人生の決断」という講座が,「ママモコモ」というサイトの「ママのチエ」というコーナーで紹介されていました(こちら)。講師は狩野みき先生という英語講師の方,対象は母親(このときは15人),所要時間は1時間半だったようです。

ここではクリティカル・シンキングが「考え方のコツというか、シンプルに言うと、いかに自分で考え、周りに流されないかということ」と紹介されています。そして,次のような講師の問いかけが書かれていました。

  1. それでは、紙の一番上に、自分が今なにについて決断したいか、なにを悩んでいるのか、または5年後にどんな自分になりたいかなど、どれか一つ、具体的に書いてください
  2. なぜ自分がそうしたいと思うのかを、書いてください
  3. その答えをさらに自問して、なぜ?なぜ?を繰り返して、本当の理由を見つけてください
  4. では、今度はその自分の欲求を満たすために、どんな手段があり得るのかを5つ以上書いてください
  5. 次に、その1つ1つについて、それを達成した場合の最良のシナリオと最悪のシナリオを書いていって下さい

この後は,「クリティカル・シンキング講座では、こうした作業を通してさまざまな選択肢から、自分にとって現実的な選択を見定めていくのですが、大切なのは、考えて、考えて、考え抜くこと。」と記者の文章が書かれているので,問いかけが上記で終わりかどうかは分かりませんが(たぶん,もう少しあるのだと思います)。

私なりの推測ですが,1〜3でやっていることは目標を明確にすることで,まず自分で意識している表面レベルでの目標を出させた上で(1),その背後にある,真の(?)目標を出させているのだと思います(2,3)。

この真の目標(奥にある目標)から見ると,最初にあげた目標も,一つの手段と言えますし,真の目標を達成する手段は他にもいろいろあると言えます。そこで,真の目標を達成する他の手段を拡散的に挙げさせるのが4でしょう。その際に,ありきたりな手段の列挙だけに終わらないように(あるいは環境や他人などの周りに流されないように)するために,「5つ以上」という制約を設けているのでしょう。

次に行うべきは,拡散的に複数挙げられた手段から最良のものを選ぶという収束のプロセスですが,ここも放っておいたら,好き嫌いとか直感など,自分の常識の枠内の考えで選ばれてしまいます。そこで,具体的にそのシナリオの将来を想像し,ありうる帰結(最善のものと最悪のもの)を,5で書かせているのでしょう。ここでも,単に「そうしたらどうなるかを予測しましょう」では,楽観的に偏り過ぎたり悲観的に偏り過ぎたりするので,それを防ぐために,「最良と最悪」という両面を挙げさせているのでしょう。

この後は,5を見ながら4の選択肢を一つに絞り込むのでしょうが,そのやり方としては,評価の観点を決めて数値化(○△×でもいいですが)するという客観的な方法もあるでしょうし,あるいは思い切って直観で決めるという方法もあるかもしれません。客観的な方法であれば,効果の高さと実行のしやすさという2軸で評価する方法が一般的かもしれません。

私は,クリティカルシンキングとは簡単にいうと,「より広く拡散し,より確かに収束すること」と考えていますが*1,このワークショップの内容も,上に書いたように,その枠組みで理解可能です。

しかしそれを,「人生の決断」というテーマを考えるための具体化を行うにあたって,こういう順序の問いかけにしたり,表面的目標の先にある真の目標に目をむけさせたり,「5つ以上」とか「最良と最悪」という具体的な制約を設けることで「広さ」や「確かさ」を確保したり,あるいは決断や悩みがイメージしにくい人に「5年後になりたい自分」という観点で考えさせたり,という形にしているのが興味深いなと思いました。

それと同時に,こういう講座なり書籍なりの形でのみしかクリティカルシンキングに触れないと,「クリティカルシンキングって,こういう順番で,あるいはこういうツールを使って考えることなんだ」という表面的な理解でとどまってしまうのだろうなと思いました*2

*1:著書『最強のクリティカルシンキング・マップ』に書いています。

*2:これも『最強のクリティカルシンキング・マップ』で書いていることです