教育改革とクリティカルシンキング

4日の国家戦略会議で平野文部科学大臣が「社会の期待に応える教育改革の推進」と題する報告を行った,との記事がBLOGOS(6/5)にありました。この報告のなかに,クリティカルシンキングの語が出てきます。

報告資料(PDF)には7つの教育改革が書かれているのですが,そのうちの2つにクリティカルシンキングがあります。下に,関連個所と私が関心がある箇所を抜粋します。

1つ目は,初等中等教育についての個所です。「すべての子どもに、課題解決のために自ら考え判断・行動できる「社会を生き抜く力」を育成」などと書かれています。

  • 社会構造の変化に対応するための初等中等教育システム改革
    • 1.多様な教育体系の確立(六三三制の柔軟化)に向けたシステム改革
    • 2.教育の質保証に向けたシステム改革
      • 教育内容の充実とエビデンスに基づく検証改善システムの確立
        • 考える力(クリティカルシンキング)やコミュニケーション能力等の育成、体験的な学びに重点をおいた新学習指導要領等の着実な実施とフォローアップ
      • きめ細やかで質の高い教育指導体制の確立
        • 言語活動の充実やICTの活用等による、協働型・双方向型の授業革新(「学びのイノベーション」)

2つ目は,高等教育(入試など)についての個所です。

  • 激しく変化する社会における大学の機能の再構築
    • ① 大学教育の質的転換と大学入試の改革(H24年度から一部実施)
      • 主体的に学び・考え・行動する人材を育成する大学・大学院教育への転換
      • 学修時間の飛躍的増加、アクティブ・ラーニングのための学修環境整備、教育方法の革新、 教員の教育力の向上等
      • 高校教育の質保証とともに、意欲・能力・適性等の多面的・総合的な評価に基づく入試への転換の促進

後者はBLOGOSでもタイトルでデカデカと取り上げられていますが,前者は触れられていません。
 
もう少し詳しく見るために,国家戦略会議のページを見てみました。

議事要旨を見ると,1時間で,教育システム改革,グローバル人材育成の推進,生活支援戦略,若者雇用戦略が取り上げられています。時間的に,議論したというよりは報告+意見交換程度のようです。

教育システム改革について,平野大臣は次のように報告しています(関連個所のみ)。

7点に絞って御説明をします。
まず第一点は学校現場でのきめ細かい、質の高い教育を支える基盤として少人数学級を推進いたします。加えて学校教育制度につきましては六三三制を柔軟化し、既にある中高一貫校に加えて、設置者の判断により小中学校の9年間、一貫した教育を行うことができる小中一貫教育制度や高校早期卒業制度の創設に取り組みたいと考えています。
2点目は、創造性あふれる人材育成のための大学入試の改革は急務であると思っています。単なる知識でなく、クリティカルシンキング能力を育てるということで、現代の共通語である英語は非常に大事であることも踏まえて、TOEFL 等も活用するなど入試の改革を進めてまいりたい。

ん? 配布資料には「クリティカルシンキングを重視した入試への転換」とありますが,こちらの説明では「単なる知識でなく、クリティカルシンキング能力を育てる」と,教育の話になっていますね(しかしその前後は入試の話です)。ちょっとちぐはぐな印象ですね。

自由討議では,お一人の方がクリティカルシンキングについて触れています。

(米倉議員)
この若者の雇用戦略は非常に結構ですけれども、非常に充実した、余りにも充実し過ぎているのではなかろうかという思いがあります。逆に言えば、これで骨太な若者というのは育つのかなと思います。何事においても依存心が出てくるようなことにならないよう、教育制度のところでも書いておられたように、クリティカルシンキングができる若者、非常にタフな若者が育つようなシステムにしてもらいたい。

2番目の議題である雇用戦略についてのご意見ですが,前半の教育改革とつなげて,「依存心がでてくるようなことにならないよう,……クリティカルシンキングができる若者」を育ててほしい,とおっしゃっているようです。こちらでもやはり(資料内容とは異なり),「教育」の話と受け取られているようです。
 
さらに,こちらのページからたどったのですが,この報告に呼応するように,文部科学省から大学改革実行プランが出されてます。

その中でクリティカルシンキングは,次の個所に出てきます。

  • 大学入試の改革 〜学ぶ意欲と力を測る大学入試への転換〜
    • 1.高校教育から一貫した質保証へ 〜点からプロセスによる質保証へ〜
    • 2.教科の知識偏重の入試から「意欲・能力・適性等の多面的・総合的な評価」へ 〜各大学が丁寧に選抜する入試へ転換〜
      • 1点刻みではないレベル型の成績提供方式の導入によるセンター試験の資格試験的活用の促進
      • 思考力・判断力・知識の活用力等(クリティカルシンキング等)を問う新たな共通テストの開発
      • 大学グループ別の入学者共同選抜の導入の促進
      • 志願者と大学が相互理解を深めるための、時間をかけた創意工夫ある入試の促進

ここで気になるのは,「学ぶ意欲」をどう測るか,具体的な話がないことです(ひょっとしたら,「時間をかけて創意工夫ある入試」をすれば,意欲が測れると素朴に想定しているのでしょうか)。
 
こうやって全体を見てみると,最初の使われ方*1といい,最後の使われ方*2といい,「新しいもの」として提案されているというよりも,従来言ってきた「考える力」「思考力・判断力」「知識の活用力」にクリティカルシンキングという語を当てているだけのようです。しかも大臣や議員の捉え方も併せてみると,使われ方は安定していないような印象を受けます。

こういうなかにクリティカルシンキングの語を入れることの意図や効果はどうなのでしょうか。

ちなみに,NUPSパンダのブログというページでは,この改革プランが期待できるのか,実行されるのかといったことについて,6/6からシリーズで論じておられます。こういう政治や行政の話は私はわからないので,興味深く読みました*3

*1:考える力(クリティカルシンキング

*2:思考力・判断力・知識の活用力等(クリティカルシンキング等)

*3:ただ素人ながらの印象としては,官僚主導で出されたアイデアでしょうから,政治体制が変わったとしても,方向性としてはこの方向に向かっていく(部分が多い)のではないかという気がします