「21世紀型スキル」を育む授業
前に21世紀型スキルってなに?というエントリを書きましたが,「21世紀型スキル」を育む授業が公開された,という記事がありました。記事の正確なタイトルは,「東大、MS、レノボなどが「21世紀型スキル」を育む授業を公開 | 日経 xTECH(クロステック)東大、MS、レノボなどが「21世紀型スキル」を育む授業を公開―豊島区立千川中学校における実証研究の中間報告」(教育とICT Online, 2012年6月20日),というものです。東大,MS,レノボ「など」とありますが,これ以外に豊島区教育委員会が関わっているようです。
授業の概要については,次のように紹介されています。
今回は、2年生の理科と、2年生の特別活動における授業例を公開した。
理科の授業では、「物質どうしの結びつき」をテーマに、「鉄と硫黄の化合」の実験を数人ずつの班に分かれて行った。その過程や結果をデジタルカメラで撮影し、タブレットPC上のメモソフト「OneNote」に写真を取り込む。そして実験結果やそれについての考察を班ごとに入力してまとめた。OneNoteには、ネットワークでつながった複数の端末で1つの“ノート”を同時に編集する機能がある。これを利用して、各班で入力した内容が自動的に全てのタブレットPC上に反映され、共有できるようにした。
単にデジタルカメラやタブレットPCを使うだけではなく、批判的思考力や問題解決力、意思決定能力などを養うための要素も盛り込んだ。例えば、教科書に示された実験の手順に対して、なぜそのような条件が必要なのかを考えたり、条件を見直して結果を予測したりと、生徒が自分で考える場面を設けた。また、3種類の実験を班ごとに振り分けて実施し、その結果をOneNote上で共有しつつ、発表し合うことで、コラボレーション(チームワーク)の力も身に付けた。
なるほど,デジカメ,タブレットPC,情報共有ソフト,ネットワークというテクノロジーを用いることで,協同的に学ぶことができるようになっているようです。この場合の協同には,グループ内でコミュニケートして共同で考えるという側面と,他グループの結果や考察を知り,それを活かすというグループ間での協同の2つの側面があるようです。
批判的思考(クリティカルシンキング)に関しては,記事内で明確に対応づけられているわけではありませんが,「教科書に示された実験の手順に対して、なぜそのような条件が必要なのかを考える」という部分で意識されているようです。「条件を見直して結果を予測」するという部分も,批判的思考といってもよさそうですが,関係者がどう考えているかはわかりません。
素朴な感想ですが,一つは,やはりテクノロジーの力はすごい(のだろうな)と思います。情報が共有できる場を作りやすいという意味で。一方で,こういうテクノロジーによらなくても共有し協同できる場面を作ることはできないのかな(きっとできるのだろうな)と思いました。今回の「21世紀型スキル」では,ICT関係の企業が関わっていることもあり,大々的にテクノロジーが使われているのでしょうが,しかし,情報機器やソフトがなければそのようなスキルが身につけられないのか,学校現場で扱えないのか,というと,そんなことはないと思うからです。
批判的思考に関しては,こういう実践例を通して見ることで,提唱者たちがここで批判的思考と呼んでいるものをどうイメージしているかがより具体的に分かりますね。今回の実践では,教科書に書かれた実験の手順を所与のものとして受け取るのではなく,その意味や必要性を自分たちで考える(考えたうえで実施する?)ということ,すなわち,「与えられたものでも自分で考えたうえで受け取る」みたいなことがイメージされているようです。そしてその部分に関しては(おそらく)ICTが絡んでいなさそうですので,これなら通常の授業にでもすぐに組み入れることができそうだなと思いました(それだけ時間はかかるでしょうが,生徒から出るであろう多様な考えを科学の文脈できちんと位置づけられるだけの教師の力量が必要そうですが)。
あと,もう一本の授業が「特別活動」というのも面白いなと思いました。特活でICTを使い,しかも21世紀型スキルを育てるなんて,どのような授業だったのでしょう。気になりますね。