ライフスキルと批判的思考

とある論文*1を読んでいたら,ライフスキル教育に批判的思考が含められていることが書かれていました。次のくだりです。

世界保健機構(WHO)の精神保健局ライフスキルプロジェクトでは,「日常生活で生じるさまざまな問題や要求に対して,建設的かつ効果的に対処するために必要な心理社会能力」とされ(WHO,1997),次のような具体的なテーマが掲げられている.
すなわち,(1)自己認識,(2)共感性,(3)効果的コミュニケーション,(4)対人関係スキル,(5)意思決定スキル,(6)問題解決スキル,(7)創造的思考,(8)批判的思考,(9)感情対処,(10)ストレス対処である.(p.62)

この筆者は日本で出されている翻訳を元に書いているようです。
WHO・ライフスキル教育プログラム
が,WHOのページを探したら,その元になっているらしきファイル(こちらからたどれます)がありました*2

この冒頭(ライフスキルの定義)には次のように書かれています*3

 ライフスキルと言えるスキルはたくさんあり,文化や状況によってその性質や定義は異なってくるだろう。しかし,ライフスキル分野を分析したところ,子どもや大人の健康やwell-beingを促進する技能の中心となる,core set of skillsがあることが示唆された。それは次のものである。

  • 意思決定
  • 問題解決
  • 創造的思考
  • 批判的思考
  • 効果的なコミュニケーション
  • 対人関係スキル
  • 自己認識
  • 共感
  • 感情に対処すること
  • ストレスに対処すること

なるほど,この10個がすべてではないし,文化や状況によって変わってくるけど,coreになるのはこれら,ということのようです。

続きを全部訳すのは大変なので,最初の4つだけ見ておきましょう(しかも全訳はしていません)。

 意思決定*4は,我々の生活に関する決定を建設的に行うことを手助けする。もし若者が,健康と関連した行動を決定するときに,異なる意見を評価したり,異なる決定が持ちうる効果を評価することによって,健康に影響を与え得る。
 同じように問題解決は,我々の生活における問題を建設的に扱うことを可能にする。〔略〕
 創造的思考は,ありうる代替案を探索し,我々が行うことや行わないことからくる様々な結果を探索することで,意思決定にも問題解決にも貢献する。〔略〕
 批判的思考は,情報と経験を客観的なやり方で分析する能力である。価値,同調圧力,メディアのような,態度と行動に影響を与える要因を認識し評価することを手助けすることによって,批判的思考は健康に貢献しうる。

ざっと見た感じですが,代替案やありうる可能性を探索することと,情報や経験,状況を分析し評価することを明確に分け,前者を創造的思考,後者を批判的思考と呼んでいるようです。またそれらは実際には*5意思決定や問題解決において使われるというか必要になってくるわけですが,そういうマクロなレベルの思考も,それはそれで項目立てしているようで,最初の4つは関連していると言えます。つまり:

意思決定,問題解決

                                    • -

    ↑
(創造的思考+批判的思考)

こんな感じでしょうか。そして私の理解では,これらは全部ひっくるめて「批判的思考」と呼ぶこともできるのではないかと思います(というか,そういう使い方をしている研究者は少なからずいそうです)。

*1:松野ら(2010)「「ライフスキル教育」開発プロジェクトの実践と課題 : 硬式野球部の取り組みを事例として」。CiNiiからPDFへのリンクあり

*2:らしき,と書いたのは,私自身が上記の翻訳本を見ていないからです

*3:ざっと訳してみました

*4:引用者注:意思決定スキルは,という意味かな?

*5:創造的思考のところに書かれているように