平和教育における批判的思考

平和教育の分野で以前から批判的思考の必要性について言われている*1,というのを見つけて,それについて少し調べたので,メモ的に書いておきます。

平和教育というと,1999年にハーグで平和アピール市民社会会議が行われ,「ハーグ・アジェンダ」なるものが採択されているようです。それは批判的思考的なニオイはするのですが,そういう言葉は直接使われていません。

その関連で見つかったのですが,ユネスコ(国連教育科学文化機関)は1974年に,「ユネスコ国際教育勧告(国際理解,国際協力及び国際平和のための教育並びに人権及び基本的自由についての教育に関する勧告)では,次の文言があるそうです(野島, 2012*2 )。

  • 国内的及び国際的諸問題についての批判的理解力を獲得すること
  • 教育は,諸国間の矛盾と緊張との底にある経済的政治的性質を有する歴史的及び現代的諸要因についての批判的分析並びに理解,真の国際協力及び世界平和の発展に対する現実の障害であるこの矛盾を克服する方途についての研究を含むべきである

文科省のページに原文と翻訳あり)

1980年には軍縮教育世界会議が開かれ,最終文書の中には次のような記述がなされています。

軍縮教育は、問題中心であるべきであって、受け入れうる国際的行動としての軍縮の削減と戦争の廃絶へむけての実際的措置を検討・評価する分析的・批判的能力を発展させるようなものでなければならない。軍縮教育は、国際理解、イデオロギー的・文化的多様性についての寛容性、社会的正義と人間的連帯への契約といった諸価値に基礎をおくべきである
国際平和と有徳・最終講義より引用)

2002年には,国連総会で「軍縮・不拡散教育に関する国連の研究」が全会一致で採択されたそうです(外務省のページより)。
その中には,次の文言があります(強調は引用者)。

7. 現代の軍縮・不拡散の教育・訓練の目的は以下の通りである。
(a)この論点について何を考えるかではなく、どう考えるかを学習する
(b)情報を与えられている市民の批判的思考技能を伸ばす

24. 新しい公式・非公式の教育課程というものは
(a)主題について批判的技能批判的思考を発展させるのに役立〔中略〕べきである。
(PDFファイルはこちら。ざっと見た中では,このファイルへのリンクが貼られている外務省のページを見つけることができなかったのですが...。)

2010年には,42か国を代表して日本が軍縮不拡散教育に関する共同ステートメントを実施したそうです。そのポイントは以下の通りです。

(1)「核兵器のない世界」の実現のため軍縮不拡散教育の果たす役割の重要性。
(2)核兵器使用の破滅的な結果に関する教育の重要性。
(3)各人が軍縮不拡散の促進に主体的に貢献できるよう,「批判的思考」の教育の重要性。
(4)2002年の政府専門家グループによる34の勧告の実施を慫慂。
(5)各国政府,国連,国際機関,市民社会NGOの間の協力促進の重要性。
外務省のページより引用。英文PDFあり)

たまたま手元にあった,平和教育に関する本を手がかりにちょっと調べてみると,いくつものものが見つかりました。ほとんど知らないことだったので,半ば驚いて(半ば喜んで)いるところです。

*1:たとえばリアドン&カベスード『戦争をなくすための平和教育』(2005 明石書店)には,「批判的で分析的な技能」は,「ほとんどの平和教育の学習目標としてあげられている」とあります(p.85)

*2:軍縮・不拡散教育」の理論と実際 : 中等教育でのカリキュラム開発と実践報告を主眼として 立命館国際研究, 25, 235-264.