道徳と思考
とある中学校の先生に,総合と道徳教育のメールマガジンに,クリティカルシンキングを紹介するような文章を書いてほしい,と言われましたので,批判的思考という言葉は使わずに,批判的思考のエッセンス的な内容を,道徳教育と関連させながら書いてみました。3回連載したのですが,第一回目の原稿のみ載せておきます。3回分の原稿はこちらにあります。
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1.「考えること」について考える 道田泰司
私は大学で心理学を教えています。ここ数年関心をもっていることは「思考」です。ここでは何回かに渡って,思考についてお話したいと思っています。道徳教育については,専門家ではありません。しかし私ももちろん,小学校・中学校と道徳の授業を受けてきた経験があります。そして,大学で学生と,自分が受けてきた教育について話を聞いたりする機会もあります。
そのような私の素人考えかもしれませんが,道徳において「思考」は非常に重要だと思います。それは一つには,すべての教科で,「多くの知識を詰め込む教育」ではなく「自ら学び自ら考える力を育てる教育」が重要になっているということもあります。しかしそれだけではありません。「相手の立場にたってものを考えること」が道徳の基本だと思うからです。実はこれは,私が考えた言葉ではありません。今私が読んでいる.『自分の頭で考える倫理』(笹澤豊著 ちくま新書, p.65)という本に出てきた言葉です。まったくその通りだと思います。
そしてこの「相手の立場に立つ」ということのなかには,道徳だけにかぎらず,「考えること」の本質が含まれていると思います。 「自分の立場から離れる」という点です。それは,「ものごとを多面的に見る」ための第一歩として,必要なことです。そして,現実に目の前にある,目に見えることを離れて,現実にないもの,見えないものを「可能性」として想像することこそが,「考える」ことだと思うのです。
もちろん「考えること」は,今述べた「多面的に見る」ことで終わりではありません。「考える」ということがどういうことかについてさえ,心理学のなかでもさまざまな考えがありますが,私は, 「見かけに惑わされず,多面的にとらえて,本質を見抜くこと」が,よりよく考えることの基本なのではないかと考えています。このなかで最も中心にあると思うのが,「多面的に見る」ことなのです。道徳をはじめとした学校教育をとおして,子どもたちがそのようなことを学んでくれるといいなあと思っています。