概念

ライフスキルと批判的思考

とある論文*1を読んでいたら,ライフスキル教育に批判的思考が含められていることが書かれていました。次のくだりです。 世界保健機構(WHO)の精神保健局ライフスキルプロジェクトでは,「日常生活で生じるさまざまな問題や要求に対して,建設的かつ効果的…

二重過程理論から見た「思考」

かつて,「考えることってどういうことだろう?」ということを考え,「「考えること」についての覚書」という紀要論文を書きました*1。 そのとき,参考にしたいくつかの論考の中で,私なりにこれは大事だと思ったのは次の2つでした。 胸の中の二つあるいは…

二重過程理論から見た意識的思考

しつこく『心は遺伝子の論理で決まるのか』について書いているわけですが,本書が私にとって示唆的だった点の一つとして,意識的思考の位置づけが少しすっきりした,という点が挙げられます。たとえば『考える脳・考えない脳』では,意識的思考のことを「古…

二重過程理論の中の批判的思考(5)

『心は遺伝子の論理で決まるのか』をまとめてきました。これに基づいて,スタノヴィッチの二重過程理論に批判的思考(クリティカルシンキング)がどう位置づけられているのかについて,考えてみました。 おさらいをすると,二重過程理論とは,並列分散処理を…

二重過程理論の中の批判的思考(4)

『心は遺伝子の論理で決まるのか』の4回目(最後),今日は7章と8章です。 7章では,「分析的システムの,ロングリーシュ型の目的は,どのように発生するのか」(p.247)という問いが検討されています。念のために確認しておくと,ショートリーシュ型であ…

二重過程理論の中の批判的思考(3)

『心は遺伝子の論理で決まるのか』の3回目,今日は5章と6章です。 5章では,進化心理学者のなかには,分析的処理メカニズムの存在を否定する理論家も少なくないことから,それについて反論が述べられています。 たとえば「一般知能は,実験室と実生活双…

二重過程理論の中の批判的思考(2)

昨日に引き続き,『心は遺伝子の論理で決まるのか』の3章と4章について書きます。 第三章では,合理性(道具的合理性)と進化的適応を区別すべきことが述べられています。「合理性が乗り物の利益にかかわるのに対して,進化的適応は遺伝子の利益にかかわり…

二重過程理論の中の批判的思考(1)

『心は遺伝子の論理で決まるのか』を読みました。2008年に翻訳が出されているのですが,もっと早くに読めばよかった,と強く思いました。それは,「思考」について考える上で,本書がとても示唆的な内容を持っているから,というだけではなく,心理学や関連…

『最強のクリティカルシンキング・マップ』が出ました

一般向けのクリティカル・シンキング本を出しました。こちらです。最強のクリティカルシンキング・マップ―あなたに合った考え方を見つけよう作者: 道田泰司出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社発売日: 2012/05/23メディア: 単行本(ソフトカバー)購入: 8人…

批判的思考本来の意味がぼやけてる?

とあるブログにコメントとして書いたので,こちらにも転載しておきます。これは,批判的思考に関するシンポジウムに参加された方が,「批判的思考がなんだか「要するに賢いこと」みたいになってきて,本来の概念の意味がぼんやりしてきてないだろうか」とい…

意思決定について(7)−落ち穂拾い

意思決定について最近考えたことはだいたい前回で書き終わったのですが,せっかくなので,これまでに引用しなかったけれども読んだ本について触れておきましょう。そういう本が2冊あります(これ以外にも心理学書の意思決定の章を参照したりもしてはいるの…

意思決定について(6)−建設的な対立と合意を生み出す

前回,「探求型の意思決定」を紹介しましたが,ではそれは具体的にはどのように行えばいいのでしょう。そのことについては,『決断の本質』にありましたので紹介します。なおこの本は,たまたまアマゾンで買ったのですが,著者は,前回紹介した「プロセス重…

意思決定について(5)−プロセスとしての意思決定

すっかり間が空いてしまいました。この間に東日本大震災が起き*1,また私的にも大きな出来事がありました。が,そろそろ考えを続けていこうという気になりましたので書きます。前回,「ビジネス系意思決定論と学術系意思決定論の違い」ということを書きまし…

意思決定について(4)−KT法

昨日紹介した『意思決定入門』のベースになっているKT法について知るために,『新・管理者の判断力─ラショナル・マネージャー』(ケプナー&トリゴー 1985 産能大学出版部)を読んでみました。新・管理者の判断力―ラショナル・マネジャー作者: C.H.ケプナ…

意思決定について(3)−意思決定における目的・目標の重要性

昨日紹介した『意思決定入門』(中島 一 1990 日経文庫)の第二版である『意思決定入門』(中島 一 2009 日経文庫)は,ほぼ原型をとどめない大幅改訂がなされており,私が初版に感じていた問題がいくつか解消されていました。意思決定入門 (日経文庫)作者: …

意思決定について(2)−『意思決定入門』(中島, 1990)

昨日,「ビジネス系の意思決定関連本で,決定部分についてはほとんど焦点が当たっていないものもある」と書きましたが,それは,『意思決定入門』(中島 一 1990 日経文庫)を念頭に置いていました。 この本の筆者は,ケプナー・トリゴー(日本)株式会社の…

意思決定について(1)

最近,「意思決定」というものを自分の中で位置づけようと考えているのですが,なかなか考えがまとまらないので,久々にこの場をメモ代わりに書いていきたいと思います。まず確実にいえるのは,「意思決定(decision making)とは,ある複数の選択肢(alternati…

「暗黙の前提」の重要性

前々から、批判的思考を考える上で、「暗黙の前提にセンシティブになること」はとても重要だと思っていました。しかしそれがなぜ重要なのか、今ひとつうまく言語化できていませんでした。しかし今日やった授業のなかで、そのことが少し見えてきたような気が…

批判的思考教育のための批判的思考概念・測定(まとめ)

とある大学の先生に,批判的思考の定義や測定に関する質問を受けました。具体的には,批判的思考教育についての研究を行ないたいのだが,研究によって様々な定義や測定尺度が使われているが,それらがどのような側面のことなのかや,自分の分野に当てはまる…

心理臨床と批判的思考

大学院の授業で、受講生に「心理臨床と批判的思考の関係」について考えてもらいました。受講生は、半分が臨床心理学専攻の学生、半分が学校教育専攻(心理学コース)の学生です。前の週に、臨床心理学専攻の学生の一人が「カウンセリングと思考」に関する発…

言語力と思考力

この4月に,『言語力が育つ社会科授業』(寺本潔(編著),教育出版, \2,100)という本が出ました。私も,「対話を通して育まれる思考」(第1部第2章), 「振り返り(リフレクション)と批判的な学びを促す教師の出方」(第4部第2章)という2つの章を書き…

批判的思考とPISA型読解力

ある方に,批判的思考とは「テキストの吟味と理解」とどこが違うのですか?と質問されました(テキストを吟味し理解することは,PISA型読解力が目指すことと同じと思いましたので,そのように表題をつけました)。これに対しては,「大差ないものとして考え…

弱い意味の批判的思考

とある院生の方から次のような質問を受けました。 道田(2005)*1には、「弱い意味の批判的思考」に陥る原因については論述されていないようにおもいますが、論述されない特別の理由をお聞かせいただけませんでしょうか? またそのような研究をされている研究…

批判的思考の概念

とある方に,次のような質問を受けました。 批判的思考力の定義や解釈について、批判的思考の知識、技能、態度にはどのような具体的な下位項目があるのでしょうか? このことに関しては,詳細な議論は,道田(2003)*1に書いていますので,よろしければごらん…

批判的思考とメタ認知

とある院生の方とのディスカッションを通して,批判的思考とメタ認知の関係をどのように考えたらよいかを考えてみました。この問題,実は私は,今まで皆目検討がついていなかったのですが,こう考えたらよいのではないかということが,この議論を通して少し…

デルファイ・リポート

批判的思考態度としての「開かれた心」のところで引用したFacioneの「批判的思考:教育と評価を目的とした専門家の合意声明」という論文は,要約(PDFファイル)がWeb上にあるので,リンクしておきます。下記サイトの冒頭のリンクからたどれます。要約といっ…

疑うゲームと信じるゲーム

開かれた心に関しては、Clinchy(1989)*1の考えも参考になります(以下の記述は、Clinchy(1989)をベースにしつつ、私なりの考えも少し入れています)。Clinchyは、開かれた心のない批判的思考のことを、「疑ってみるゲーム」(doubting game)と呼んでいます。…

強い意味の批判的思考

開かれた心と同じような概念に、Paulのいう「強い意味の批判的思考」(critical thinking in a strong sense)というものがあります。それがどういうものかを、道田(2005)*1をもとにまとめておきます。強い意味の批判的思考を支える態度としてPaul(1992)*2は、…

批判的思考態度としての「開かれた心」

開かれた心(open-mindedness)は、批判的思考の諸要素のなかでも、特に重要な概念の一つだと私は思います。そこで、代表的な批判的思考研究者が「開かれた心」について、どのように述べているか、まとめてみました(道田(2003)*1と道田(2006)*2をもとに構成し…

批判的思考の必要性

批判的思考はいらないなどと書いたので,今度は逆に,批判的思考の必要性について書かれている文章を紹介します(引用中の強調はすべて引用者によるものです)。そこで「どのような」批判的思考の必要性があるかをみておきましょう。まずは佐藤(2003)*1から。…