意思決定について(4)−KT法

昨日紹介した『意思決定入門』のベースになっているKT法について知るために,『新・管理者の判断力─ラショナル・マネージャー』(ケプナー&トリゴー 1985 産能大学出版部)を読んでみました。

新・管理者の判断力―ラショナル・マネジャー

新・管理者の判断力―ラショナル・マネジャー

てっきり意思決定についての本だろうと思っていたのですが,違っていました。確かに出発点は「意思決定」のようです。しかしそれは単なる出発点だったということが,本書の序文に書かれており,非常に興味深いので引用しておきます。

1957年,われわれは,「ランド・コーポレーション」で社会科学の研究に携わっていた。この研究を進めるうちに,政府機関や民間企業で行われている意思決定がどれもこれもあやしげだったり,出たらめだったりするという事実を目のあたりにした。どうしてそんなお粗末な決定が行われるのか。不思議に思って,その経緯を調べてみると,利用できる重要な情報があるのに,それをなおざりにしたり,よく考えなかったり,検討に注意を欠いたりしたからだということがわかった。
(中略)
われわれは,当時,「意思決定」とか「問題解決」と呼ばれていた文献を調べてみたが,どれもこれも役に立ちそうなものはなかった。そこで,実務の場に立ち返って,実際に仕事をしている管理者と話し合ったり,彼らを観察したりしてみた結果,少しずつ分かり始めたのである。(pp. iii-iv)

そこで分かったのは,必要な思考の型と手順(ラショナル・プロセス)に4つの異なるものがあることだったようで,それがKT法の核となっています。その4つとは以下のものです。

  • 問題分析(原因究明)……「どうしてそうなったのか?」
  • 決定分析(選択決定)……「どういう処置をとればよいのか?」
  • 潜在的問題分析(将来の出来事とその影響の予測)……「将来どんなことが起こりそうか?」
  • 状況把握(状況分析)……「何が起こっているのか?」

この中の問題分析は,要は「一致と差異の併用法」を用いてシステマティックに原因を調べるという感じです。
決定分析は,要するに意思決定です。
潜在的問題分析は,実行中に生じうる危険性を考え,危険防止の予防策や緊急時の対応策を考える,という感じです。
状況把握は,現在生じている問題や自分の関心事に合わせて,これら3つをどう適用するかを考える,という感じです。

 
私の目下の興味である「意思決定」(決定分析)については,次のようなプロセスで行うのが合理的ということのようです。

  1. 「決定ステートメント」の作成
    • 「何の目的で」「何を」「いかにして」
  2. 目標を設定する
    • 目標とは,決定を行う基準のこと
  3. 目標を分類する
    • 絶対に必要な目標(絶対目標:MUST)
    • 望ましい目標(希望目標:WANT)…複数の希望目標を,重要度によって重みづけをする
  4. 代替案を作成する
    • 複数の候補案を作る
    • 候補案が1つしかない場合は,その適否を検討することになる
  5. それぞれの案を比較し選択する
    1. 絶対目標を満たしていないものは却下
    2. それぞれの希望目標について,各案を点数化
    3. 各案の重みづけされた点数を計算し,暫定案を選択
    4. マイナス影響(リスク要因)を予測して暫定案を再評価し,最終決定

きわめてシステマティックに考えられているので,これがきちんとできれば,よりよい意思決定が可能だろうなという感じはしますし,あるいはうまくいかなかった意思決定を分析する枠組としても使えそうな感じはします。

 
一方で,学術系意思決定本*1である『すぐれた意思決定』(印南一路 1997 中央公論新社)には,次のように書かれています*2
すぐれた意思決定―判断と選択の心理学

  • [問題の定義→選択肢の発見→判断基準の設定→効用を最大化する選択肢の選択]といった,伝統的な意思決定のフレームは,実際には使えない。(p.17)
  • ハウツーものの本が説くほど意思決定を改善するのは容易ではない(p.22)

これは,情報の不確実性や不完全性,人間の情報処理能力の限界から言われているようです。だからといって「使えない」という言い方は極端だと思います。というのはKT法でいうなら,実際の現場観察やインタビューから問題を見いだしていますし,また実際に企業を相手に経営コンサルティングを行ってそれなりに指導実績を挙げているはずですから*3。でも少なくとも,こうすればうまくいくとか,このようにきれいに流れる,というわけではないということだろうと思います。

ではそのようにきれいに流れるとは限らないときにどのように考えるか。たとえばKT法では「状況分析」がありますので,状況を見ながらその都度,問題分析だの決定分析だの潜在的問題分析を繰り返すということなのだろうと思います。そしてこのような点が,ビジネス系意思決定論と学術系意思決定論の違いのような感じがします。そのことはまた明日書こうと思っています。

*1:とても平易に書かれてはいますが

*2:この本についての私の読書記録はhttp://www.cc.u-ryukyu.ac.jp/~michita/reading/2001-01a.html#innami97にあります

*3:それに加えて,印南(1997)で最終的に挙げられている意思決定の考え方も,結局は伝統的なフレームに収まっている,ということもあり,「極端」だなあと感じました