批判的思考とメタ認知
とある院生の方とのディスカッションを通して,批判的思考とメタ認知の関係をどのように考えたらよいかを考えてみました。この問題,実は私は,今まで皆目検討がついていなかったのですが,こう考えたらよいのではないかということが,この議論を通して少し見えてきました。
まず私の基本的な立場については,『おもしろ思考のラボラトリー』に書いたのですが,批判的思考を「認知心理学の一つの研究領域というよりも,Halpernの定義にあるように,認知心理学研究の成果を,技能あるいはリソースとして「利用」する立場にある」というものです。
そう考えた上で批判的思考研究者が述べている批判的思考概念をみると,その中に,「メタ認知」的要素がみられます。たとえばEnnisは批判的思考を「反省的な思考」と言っているわけで,それはかなり明確な,コントロール性の高いものだと思うのです。Ennisの能力の記述も同じで,明確化する,評価する,判断する、というように,かなり意識的な,メタ的な制御を含むものだという感じがします。Facioneのいう「self-regulation」と同じです。
逆に,メタ認知研究の中にも「批判的思考」的要素が存在します。たとえば相互教授法なんかは,そのまま批判的思考の育成法の一つと言ってもおかしくないものなのではないかと思います。
こう考えると,批判的思考を研究・教育する上で,その中の「メタ認知」的要素を意識することには相当な意味があると言えますし,逆にメタ認知を研究する上で「批判的思考」研究・教育を意識することも,相当意味があることではないかと思います。