態度と技能

大学院在学中の現職の先生から,引き続き,今度は批判的思考の態度と技能について質問をいただきました。

私は「態度」と「技能」の整理で迷っています。知的誠実や公正さ、謙虚さを技能としてとらえている研究者もいます。
先生の論じられている態度とは前提にあるということですか? それとも、技能を身につけながら態度も育てていくととらえていいのですか? 技能があるから、そういう態度も身につくのでないかと考えてしまいます。ただしそういう態度がないと、技能を発揮しないともは思えます。

後半は教育の問題ですので分けて扱うことにして,まず前半の「態度と技能の整理」について書きます。

態度は,英語では,disposition, inclination, propensityなどと表現されることが多いようです。どれも,一定の「傾向」(傾向性,傾性)があることを指しています。これ以外にも,habit of mind(心の習慣)とか,spirit(精神)と表現している研究者もいます。

つまり態度とは,習慣的・日常的に「しようとすること」と私は捉えています。それに対して技能とは(やろうと思えば)「できる」ことです。

世の中には「できる」けど「やろうとしない」人もいますし,「できない」けどできないなりに「やろうとする」という人もいるかと思います。このことからも,両者が異なるものであることがお分かりかと思います。またこのことから,批判的思考のすべての要素がこの二側面を持っていると考えられます。たとえば同じ「理由を探す」ということについても,「理由を探すことができる」ことは技能ですし,「常に理由を探そうという姿勢で情報に接している」という面は態度といえます。

ですから,コレは技能なのか態度なのか,と細かく考えて悩む必要はないと私は思います。

とはいえ,批判的思考の代表的な研究者の何人かは,批判的思考の態度と技能を(一つの要素の二側面としてではなく)別のものとしてリストの形で提示しています。たとえば,もっとも多く引用される研究者であるEnnis(1987)*1は,態度のリストとして次のものを挙げています。

1.命題や問題を探す
2.理由を探す
3.情報を集めようとする
4.信頼できる情報源を使う
5.全体の状況を考慮に入れる
6.中心点から離れない
7.基本的な関心を忘れない
8.他の選択肢を探す
9.開かれた心でいる
10.証拠と理由が十分であれば,その立場に立つ
11.主題が許す限りの正確さを求める
12.複雑な全体を秩序だって扱う
13.自分が持っている批判的思考技能を使う
14.他人の感性,知識レベル,洗練さの程度に敏感である

これをみると,13番などはそのものずばり,技能を使うこと(使おうという姿勢)のことが述べられています。それ以外のものは,開かれた心で,明確に,正確に,というような感じで,要するに,批判的思考技能を「きちんと」遂行することを要請している,とまとめることができるのではないかと思います。すなわち,これらも,技能使用に対する姿勢・心がけ的なことが列挙されているといえるでしょう。

*1:Ennis, R. H. (1987). A taxonomy of critical thinking dispositions and abilities. In J. B. Baron & R. J. Sternberg (Ed.), Teaching thinking skills: Theory and practice (pp.9-26). New York: W. H. Freeman.