思考と批判的思考

某所で「思考技能と批判的思考技能は違うものか」というような質問を受けました。考えてみたら、ここでいう「思考技能」がどんなものを指しているのか、聞くのを忘れてしまいましたので、答えやすいように、「技能」を除いて、思考と批判的思考の関係について書いておきます。

この問いは、批判的思考とは何か特殊な思考なのか、という問いなのだろうと思います。そしてそれに対しては、業界(?)でも意見は分かれているようです。たとえばHalpern(1996)は、批判的思考は高次思考技能と言ってもいいと述べているのに対して、Beyer(1985)は、批判的思考は他の思考技能と混同されている、と述べています。

この違いはどこから生まれるのでしょうか。一般にいって、Halpernのような心理学者は批判的思考の細かい定義にあまり興味がないようです。それに対して教育学者(教育哲学など)は、批判的思考の概念について、さまざまな論文を出し論争しているように、その独自性を捜し求めているようです。違いが生まれるもう一つの要因として、批判的思考の概念が、時間とともに概念が拡大して行っていることが挙げられます(そのことは、こちらの学会発表に書きました)。もっとも広い捉え方では、批判的思考と思考全体、あるいはその他の思考(たとえば創造的思考)は、もはやアクセントの置き方の違い程度でしかないようです。そして私は、批判的思考を捉えるときは、思考全体として捉えるべきだと考えています。そう考えるならば、思考(良い思考)と批判的思考には、ほとんど差がないということです。

どのように考えるのがベストかはさておき、「批判的思考」と銘打たれていない思考(思考技能)の中にも、批判的思考的な観点から見て、役に立つ、いいなあと思えるような思考技能はあちこちにあると思います。そういうものもどんどん取り入れ活かしていくためにも、批判的思考の概念をあまり狭く捉えるのは得策ではないのではないか、と私は思っています。