カルロス・ゴーン(日産CEO)

 カルロス・ゴーン氏が日産を立て直すために行ったこと*1も,きわめてクリティカル・シンカー的だと私は思いました。

 ゴーン氏が来日して最初に行ったのは,正確に日産の現状を捉えることでした。そのために,事前に持っていた知識はすべて脇において,さまざまなところに出向いて現場の社員に質問することで現状を理解し、問題を明確にしていきました。

 たとえば工場に見学に行ったときには,「設備能力はどのぐらいで、工場全体でのパフォーマンスはどうなんですか」,「原価についてはどんな推移をしているんですか」など,適切な質問をすることで現状を理解し,分析したそうです。

 批判的思考というと,ともすれば「批判をすること」と捉えがちですが,そうではありません。たとえば適切に質問することで,現状をより深く理解し,分析することができます。そのような「質問力」は批判的思考を行うためには欠かせないものでしょう。

 適切な質問を行うためには,自分の持っている知識や先入観(主に現場以外のところで得た知識)をいったん脇におき,フィールドワーカー的に現場を自分で見て,現場の人と話をすることで,よりリアルな認識を持つことは,おそらく大事なことでしょう*2

 またゴーン氏は,「解決策は必ず内部にある」と考えており,部門横断のチーム(クロスファンクショナルチーム)をつくり、再生のための原案作りをさせました。そこでは,「議論の内容に聖域、タブー、制約は一切設けてはならない」(p.42)というルールの元で,斬新かつ建設的な議論を行わせました。この姿はさしずめ,ファシリテータ的といっていいかと思います(かなり強いリーダーシップも発揮してはいましたが)。

 ここに見られるのは,質問者としてのクリティカル・シンカー,フィールドワーカーとしてクリティカル・シンカー,ファシリテータとしてのクリティカル・シンカーといえるでしょう。

*1:伊藤良二 (2000) 『ゴーンが挑む7つの病―日産の企業改革』日経BP社 などを参照しました

*2:ちなみにそのような現場主義的な考え方は,たとえば旭山動物園の改革においても見られました。あるいは,第二次世界大戦時に硫黄島の戦いで総指揮をとった栗林中将もそのような人だったようです。さらには,イタリアトヨタを改革した北村社長もそのような人だったようです