判断力としての批判的思考

『小学校 学習指導要領の解説と展開 総則編―Q&Aと授業改善のポイント・展開例』を見ていたら,批判的思考の語が出てきたので,忘れないように記しておきます。

小学校学習指導要領の解説と展開 総則編―Q&Aと授業改善のポイント・展開例

小学校学習指導要領の解説と展開 総則編―Q&Aと授業改善のポイント・展開例

出てきたのは,「知識・技能を活用して課題を解決するために必要な「思考力・判断力・表現力その他の能力」をどのように考えたらよいでしょうか? また,それらをはぐくむにはどうしたらよいでしょうか?」(p. 36)という問いに対する答えの部分です。

答えは,次の4項からなっていました。

  1. 知識・技能は活用を重視
  2. 考える学習体験の重視
  3. 判断する学習体験の重視
  4. 表現し説明する,伝え合い学び合う学習体験の重視

このなかの,第3項(判断する学習体験の重視)に,次のように書かれていました。

問題解決には,解決の見通しや方向を選択したり,過程の進め方の是非を見極めたり,得られた結果や考え方,方法が正しいものかどうかを判定するなどの判断力が必要になります。判断力も思考力と同様に向上目標ですから,判断する学習体験を通して育てることになります。批判的な読み取り(クリティカル・リーディング)や批判的な考え(クリティカル・シンキング)を奨励し,これでよいかどうか,なぜよいといえるのか,なぜいけないのか,どちらを選択したらよいかなどを判断する体験を豊かにもたせるようにします。(p.37)

以下,個人的なコメントを書いておきます。

まず,判断力について「解決の見通しや方向を選択したり,過程の進め方の是非を見極めたり,得られた結果や考え方,方法が正しいものかどうかを判定する」と書かれています。実は私は,思考・判断・表現と言ったときの思考と判断の違いがよく分かっていなかったのですが,この記述を見る限り,ここでいう判断力って,メタ認知的なモニタリングとコントロールのように見えます。本当にこれを,(思考力とは別の)判断力,といっていいのか。よくわからない感じです。

次に,批判的読み取り,批判的思考として,「これでよいかどうか,なぜよいといえるのか,なぜいけないのか,どちらを選択したらよいか」とあります。しかしこれらは,単なる通常の思考そのもののように見えます。あえて「批判的」と形容するものなのかな?という疑問が残ります。

最後に,「それらをはぐくむにはどうしたらよいでしょうか?」に対する答えとしては,「体験を通して育てる」「体験を豊かにもたせる」というのは,まったくその通りだと思います。そのようなことは,思考力育成のカナメというエントリーに書いています。

とまあ記述に多少の疑問は残るものの,こういう本で,クリティカル・シンキングという語が用いられていることの意義はあるのだろうなと思います(もっとも,概念が明確でないと,読者に混乱を招くという心配もありますが)。