writer's blockからの脱却
ライターズブロックという言葉があるそうです。文章を書いていて書けなくなることです。今,論文を書いていて95%ぐらい終わったのですが,書くプロセスで,2回ほど大きなライターズブロックに見舞われました。幸いにしてそこから抜け出すことができたので,メモ書き的にその体験を書いておきましょう。
まあ,文章が書けないなんてのは日常茶飯事でしょっちゅうあるといえばしょっちゅうあるわけですが,今回のは,どちらも8割以上書き終わった時点で起きました。1つは,「終わりに」というかまとめの文章が書けないという問題でした。
ちなみに今書いているのはレビュー論文です。批判的思考(クリティカルシンキング)の教育に関して,最近の日本で書かれた論文をCiNiiで検索して150本ほど集め,そのうちの100本ほどを中心に,最近の研究・実践動向についてまとめました。先行研究の整理があらかた終わり,あとは最後に何か書くだけ,という段階になって,まったく筆が進みませんでした。
ちなみに論文自体は締め切りの1か月前に8割(「終わりに」以外)を書きあげ,複数の知人に目を通してもらっていました。その時点では「あと1カ月あるから何とかなるだろう」と思っていましたが,10日経っても20日経ってもちっとも「終わりに」を書ける気がしませんでした。こんな感じのことを盛り込もうか,という着想はそれなりに湧きましたが,文章化できません。基本的な戦略は,『「超」文章法』(野口 悠紀雄)にあるように,啓示が来て,天使が微笑んでいるのが見えるまで考えながら待つ,というものです。でもちっとも埒があきませんでした。
そこでふと思い出したのが「フリーライティング」(ノンストップライティング)という手法です。これは批判的思考研究者でもあるElbowが提唱している方法で,「文字や文章の誤りに注意することなく素速く書き出すことで、思いがけない言葉のつながりや直感的アイディアを生み出す思考」(Elbow, 1983)というものです。私はこれについてはあまり詳しくないので,ネットで検索してみました。そして意を決して「自由に」書いて見ました。書くのに要した時間は5分〜10分ぐらいでしょうか。それだけであっけなく書くことができました(もちろんその後に推敲はしましたが)。
今回初めてやってみたのですが,この手法は今後も使えそうなので,Web上にあった情報をいくつかクリップしておきたいと思います。
第一ステップでは、どんどんノンストップで書いていく。どのような言葉を選べば適切か正確か、はたまた文法などは一切気にせずどんどんノンストップで書いていく。ここで大事なのは「ノンストップ」という点です。途中で論旨がずれたり、書くことが思い浮かばなかったりしても決して気にしてはいけません。止まらずに書いていきます。あまりに論旨がずれた場合は、思い切って段落を改めればよいでしょうが、あくまで優先させるべきは「書き続けること」です。
書くことが思い浮かばない場合でも強引に書き進める。たとえば、構造主義について何か書こうとして何も思い浮かばないとする。その場合でも「構造主義について何か書こうとしているが何も思い浮かばない。」などと書き連ねる。そうしているうちに手と頭が温まって「たったいま書いた文から連想が働き、次の文が生み出される」というように1つの「流れ」が形成されてきます。
Deep Breathing
ともかく止まらず,論旨がずれても,思い浮かばなくても書き続ける,というのはいいですね。この方も書いていますが,ブレーンストーミングと同じで,「アイディアの生成と評価を分離する」わけですね。
- とにかく3分から5分書き続ける
- 何があっても途中で止まらないこと
- 急がずに、でもさっさと書くこと
- 決して振り返らずに、進み続けること。書いたものを見直して何かを消したり、スペルや漢字など表記の問題にとらわれないこと。どの言葉を使うべきか、今しているかについて考えないこと
- 使うべき言葉が思い浮かばないときは、ペンでぐしゃぐしゃと書くか、「思いつかない」と書くこと
- 思いついたこと、思っている思考をそのまま書くこと
- 詰まったら、「何を書いたらいいかわからない。何を書いたらいいかわからない」と書いたり、最後に書いた単語を繰り返し必要なだけ書いてよい
- 唯一しなければならないことは止まらずに書き続けること
3分から5分という時間が指定しているのがいいですね。それだけ「はじめる気構え」を低減できそうです(といってもこのブログの別の個所には「10分ぐらい書き続ける」とありますが)。
フリーライティングとは文字どおり、編集作業から「フリー」になって書くことを言います。生徒はリラックスして思う存分に書き散らすことができるため、書くことに対してフラストレーションを感じずに済むのです。フリーライティングの目標は、時間内に(大抵10〜20分の間に)できるだけ多くの発想を書き出すことです。エルボー(Elbow, 1979)は、この目標を達成するために一番大切なことは「絶対に書くことを止めないことである」と主張しています。間違いを疑って止まらないこと、スペルミスを見つけるために止まらないこと、文法ミスを見つけるために止まらないこと、読み返すために止まらないこと。とにかく、決して書くことを止めないことです。
優れたEFLライティング教師になるためには
「間違いを疑って止まる」というのが,今回の私の難所だったようです。やっぱり論文の仕上げ部分はきちんと書きたい。そういう思いがあったんでしょうね。それを払拭するのに,フリーライティングはとても効果的でした。
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さて,2番目のライターズブロックは「終わりに」を書き終えた後に来ました。これでもう9割方出来上がったので,要約を書こうとしたのですが,これまた書けません。ここでまた数日が過ぎてしまい,時間がかけられる週末はもう今日で最後になりました。でも要約なんて,今まで書いたことの要点を文字通り要約すればいいんでしょ,と開き直って書こうとしたのですが,やっぱり書けません(今日のことです)。
そこで,じゃあまずは本文中から各パートのまとめ的な部分を抜き出そう,と思って本文をチェックしてみてようやく気づきました。パートごとに明確なまとめがなく,そこで何を伝えようとしているかが全く見えないのです。なるほどこれじゃあ要約が書けないわけだ,と納得しました。
さっきも書いたように今回はレビュー論文なので,最近こんな研究がされている,と整理して紹介するのが目的ではあります。しかし整理だけでは論文としての面白みにかけます。整理しながら思ったことがあり,それを伝えるべく整理の観点を決め,取り上げる研究をチョイスし,配列を決めたはずです。しかし「何のためにこれらの論文を取り上げたのか,それを通して何を伝えようとしているのか」という根底にある私の考えを明示していませんでした。そこで今日は半日ほどかけて,まず本文を見直し,伝えたいことを明示することにしました。
ちなみにこの点に関しては,1か月前に草稿を送って読んでもらった人に,「先生の主張をもっと知りたいです」というコメントをいただいていたのに,「今回は「展望」なので基本的には私見を抑えて事実を淡々と書きます」などと返事をしていました。コメントしてくれた方の真意は分かりませんが,気づいて見れば問題解決の糸口になるべきものはすでにもらっていたのに活かせていなかった,という事実に先ほど気づいて,ちょっと愕然としました(でも一方で,あの時点で気付けなかったのはしょうがないだろうなという思いもあります)。
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ということで今回は,2種類のライターズブロックを体験し,それぞれ異なる方法で曲がりなりにも抜け出せたので,それを記録しておく次第です。この経験がまたいつかどこかで役立つといいんですけどね。