集団思考による思考力育成

とある学校の方から,次のような問い合わせをいただきました。

本校では、複眼的視点・思考の育成のために個の限界を集団で補完しようと小集団の討議を導入していますが、集団の凝集性が高まると、集団内が同じような考え方・トーンになってしまい、視野拡大、思考柔軟の効果にも限界が生じるのではと集団思考のネガティブな影響を危惧しています。このような集団思考についての道田先生のお考えを頂きたいので宜しくお願いします。

集団思考がときとして,視野拡大,思考柔軟にマイナスの影響を持つというのは,その通りですよね。

そもそも一般論として,視野拡大や思考の柔軟性のために何が必要かというと,自分の思考の「枠」の存在に気づくことであり,その枠を越えた思考があることに気づくことであり,枠の中だけで思考できないようにする「壁」が存在することだろうと私は思います。

集団思考では,自分とは異なる他人の考えに触れることや,自分の意見が通らない他人(=壁)と話し合うことが,枠を越えさせる働きをするのでしょう。しかし,他人が自分とあまり考えが変わらないのであれば(つまり個人の枠と他人の枠が同じようなものであれば),それは,枠を越えさせる壁として作用しないということなのでしょうね。

「壁」になるようなものというのは,一種類しかないわけではありませんので,視野拡大,思考柔軟のためには,さまざまな壁をアチコチに用意するのがいいのではないかと思います。同級生以外の他人(たとえば先生)もそうでしょうし,「知識を得る」ということも枠の拡大につながりますし,実際に試してみて失敗する,ということも重要だろうと思います(特に,実際に試してみて失敗する,という試行錯誤の繰り返しは,とても重要だと思っています)。

ということでまとめると,集団思考は有効ではあるけれども,あくまでも一つの方策に過ぎない。集団思考も含め,さまざまな手立てを,目的に照らして用意することが必要だということです。

なおこのようなことは,「思考力を育てる」*1に概略を,「批判的フィードバックのある教育」*2に詳細を書いていますのでご参照ください。

*1:道田泰司 (2007) 思考力を育てる 学習研究(奈良女子大学附属小学校学習研究会), 428, 56-61.

*2:道田泰司 (2007.01) 批判的フィードバックのある教育 琉球大学教育学部紀要, 70, 213-225.