グラウンデッド・セオリー・アプローチ

質的研究法は,やりたいと思いながらもなかなか手を出せずにいます(卒論生にはその真似事のようなことを,あまり厳密性を重視せずにやらせていますが)。

しかし,どうもやらざるを得ない状況になってきたので,改めて,論文を探したり過去に購入した本に目を通したりしていました。そこで今回ネット上で見つけたのが,実践しながら学ぶグラウンデッド・セオリー・アプローチというページです。才木クレイグヒル滋子先生を中心に運営されているようです。

このページがとてもよかったのは,実際に寄せられた悩みに基づくQ&Aがあった点です。本を通して質的研究法を学んでも,そこに書かれていないこういうケースではどうしたらいいんだろう,と思うことがよくあります。それにこのページは見事にこたえています。

せっかくなので,自分用のメモも兼ねて,いくつかを抜粋しておきます。箇条書きの第一階層が質問の概要,第二階層が回答の抜粋,カッコ内がURLとなっています。

  • 自記式の調査票で得た自由記述をGTAで分析できるか?
    • →質問を深めることができない,理論的サンプリングができないという限界はありますが,これらを明記なさった上で使用なさることは可能だと思います.(
  • 複数の情報提供者に同時にインタビューするとき、データをどのように扱えば良いのでしょうか?
    • →Aさん,Bさんのどちらが話したかを考えずに分析してみるという方法とAさん,Bさんそれぞれが話したことを別々にテゴリーにまとめるという方法の2つの方法がとれると思います.……どちらの方法をとっても,2名の方の話を比較する,いわゆるデータ内の比較をおこない,プロパティとディメンションを増やすことができると思います.(
  • 分析において、概念名の妥当性などはどのようにして確認するのか
    • →私たちがお互いの分析結果をチェックする時には,同じ名前がつくかどうかの一致度よりも,データからプロパティとディメンションが無理なく抽出されているか,それを基にした概念名がつけられているのかを中心に確認します.まずは,自分の分析結果をこのようにチェックしてみることが,概念名の妥当性を確認する方法になると思います.(
  • どう説明すれば、質的な研究をしていない人たちにも、「インタビュー」の結果に信頼性・妥当性があるのです、といえるのでしょうか・・・
    • →インタビューの信頼性・妥当性を問題とするよりも,それによってリッチなデータが収集できたかどうかを指標にインタビューを評価します(
  • ラベルやカテゴリー名を付けるときの留意点(という質問ではなかったが...)
    • →既存の概念を使って分けてしまってはデータに基づいた分析ではなくなってしまいますし,その概念定義に縛られてしまうと,そこから新しい知見を見つけることは困難になります.そのため,私たちの勉強しているGTAでは,ラベルやカテゴリー名に既存の概念名を使用することを出来るだけ避けるようにしています.(
  • 分析はすべて行うということでしたが、プロパティとディメンション、ラベル名までつけて、カテゴリー分けの際は使用しないこともありますか?もしくは、最初から対象にしない切片もありますか?
    • →分析はすべておこなうことが基本です.研究テーマを決めて研究計画書を書き,インタビューなどの調査をおこないますが,研究計画の段階でのテーマは,あくまで暫定的なものにすぎません.グラウンデッド・セオリー・アプローチでは,テーマは「設定」するものではなく,データに基づいて抽出するものです.ですから,最初から,今回の研究テーマと直接関係がないからという理由で,分析をしないというのは避けた方がよいと思います.自分が「今回の研究テーマと関係ない」と思っているだけで,もしかしたらとても重要な何かが分析をしなかった部分に潜んでいるかもしれませんよ.

こういったことを書籍にすべて盛り込むことはできないでしょうが,こういう風に分析対象の「幅」が示されたり,分析の勘所(落とし穴を避ける方法)が書かれていたりすると,分析方法の理解が進む気がします。そういう意味でとてもありがたいページでした。