ビジネス系におけるロジカルとは?
新しいカテゴリーを作りました。ビジネスの世界でよく,「ロジカルシンキング」という語が使われています(以下,「ビジネス系ロジシン」*1と略します)。ここでいう「ロジカル」ってどういうことなんだろう,と最近考えています。そこでこのカテゴリーを使って,しばし,私の悩みや考えをここに書いてみようと思っています。
この問題意識自体は半年ぐらい前から持っていたのですが,ちょうど最近,id:ubukatamasayaさんのブログに,次の記述がありました。
ロジカルシンキングで出てくる結論は何でもありなのか、と聞かれれば、それはNoです。その理由を答える前に、ロジカルシンキングにはびこっていると個人的に考えている、ある「誤解」について考えたいと思います。それは、「ロジカルシンキングとは演繹と帰納、つまり(いわゆる)論理学に近いもの」ということです。
何か当然のことのように感じますが、個人的にはこの発想からすべての誤解が始まっているような気がします。
Thinking Laboratory | ロジカルシンキングでは決まった答えしか出ない?
「ロジカルシンキングとは論理学に近いもの」という考えは,私も違うと思っています。ついでにいうと,この記事のタイトルになっている「ロジカルシンキングでは決まった答えしか出ない?」という問いに対しても,私はubukatamasayaさん同様,違うと思っていますし,上の引用にある「ロジカルシンキングで出てくる結論は何でもありなのか、と聞かれれば、それはNoです」という部分も,その通りだと思います。じゃあロジカルシンキングにおける「ロジカル」って何なの?ということを考えていきたいのです。
ということで,基本的にはこの方とは問題意識が重なっているように感じます。が,現状認識については,ちょっと違いがあるように感じますので,まずはそのことを論じておきましょう。
ubukatamasayaさんは,『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー別冊 「超」MBAの思考法』の記事や,ご自身がいろいろな書籍で目にしてきた経験を元に,次のように述べられています。
どうもロジカルシンキングというと、「堅苦しい」「決まった答えしか出ない」「斬新な答えが出ない」と見られるのが相場のようです。
この現状認識が私は違うのです。「論理学というと,堅苦しい……などとみられるのが相場」というのであればその通りですが,私は「ロジカルシンキング」という語は,論理学由来のものとビジネス系とで,大きく異なる使われ方がされていると思います*2。しかし,上記の『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー別冊 「超」MBAの思考法』で論じられているロジカルシンキングは,論理学由来のロジカルシンキングのみが念頭に置かれているようです。
というのは,論じているのは皆,大学の先生です。大学の先生の多くは,ビジネス系ロジシンについてあまりご存じじゃないでしょう*3。なんていうと決めつけすぎですが,もしビジネス系ロジシンが念頭にあるのであれば,「ロジックツリー」や「MECE」などに言及すべきだと思います。しかし彼らの記事のなかにそういう記述はみられません。要するに彼らは,論理学由来のロジカルシンキングだけを念頭に,「堅苦しい」「決まった答えしか出ない」「斬新な答えが出ない」「演繹と帰納とほぼ同義」と言っているのだと考えられます。それでは,ロジカルシンキング=論理学という意見しか出てこないでしょう。
しかし,世の中にあふれている「ロジカルシンキング本」(私がビジネス系ロジシンと呼んでいるもの)をみると,いわゆる論理学とはかなりかけ離れた使い方で「ロジカル」という語が使われているようにみえます。ubukatamasayaさんの記事でいうと,「ロジカルシンキングはMECEです」「コンサルタントが使う3Cとか5つの力だとかいうのを使って分析すること」というような使い方/考え方です。つまりビジネス系ロジカルシンキングの世界においては,ロジカルシンキング≠論理学なのです。
ということでまずこの記事では,そのような形で「ロジカル」が使われていることを確認しておきましょう。
私の見る限り,ビジネス系ロジシン本の源流をたどると,『考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則』にたどりつきます*4。この本をみると,「論理的」という語が実にさまざまな使われ方をしていることがわかります。いくつかを引用してみましょう(強調は引用者。〔〕は引用者による補足)。
- 〔ピラミッド構造における〕横の関係とは,横に並んだ考えのグループは何らかの論理的な共通点を持ってグループ化されているということです。(p.4)
- 〔メッセージの〕配列法については,第6章「ロジックの順序に従う」で詳しく説明しますが,基本的には,論理的な並べ方には4つの方法*5しかありません。(pp.16-17)
- 読み手の知らないことについて何かを主張するということは,自動的に読み手の頭の中に論理的な疑問*6が生じるということです。(p.20)
- グループ化*7が完成すれば,それをもとに論理的な推論を導くことができます。(p.131)
- これらポイント*8間の論理的関連性を見出し,他の考えとは一線を画していることを明らかにします。(p.154)
- モレなく論理構成していれば,読み手があなたの考えに反論することなどあり得ないでしょう。(p.158)
- 自分の考えをこれらの分析構造*9と合致させることにより,論理的な妥当性を検証するための手助けとすることができるのです。(p.223)
ざっと拾ってみましたが,実に多彩な使われ方をしています。この中で,論理学的にOKな表現は,「論理的な推論」「論理的な妥当性」というところでしょう。判断が難しいのが「論理的な共通点」「論理的関連性」「論理構成」で,首をひねるのが「論理的な共通点」「論理的な並べ方」(論理的な順序)「論理的な疑問」といったところです*10。
特に分かりにくいのが「論理的な並べ方/順序」で,論理学では,演繹的推論にせよ帰納的な推論にせよ,命題(前提と結論)をどのような順序に並べようが,妥当な推論は妥当な推論で,順序によって論理性が変わることはないはずです。特にこの点が,ロジカルシンキングを「論理学由来」と「ビジネス系」に分けて考えざるを得ないと私が感じる点なのです(それに加えてもうひとつ分かりにくいものとして「ロジックツリー」がありますが,これについてはまた後日)。
ちなみに「論理的な順序」というような表現に私が最初に接したのは10年近く前,作文教育の人と一緒に仕事をしたときでした。そのときにもミントの『考える技術・書く技術』が参考文献として挙げられていました。その意味で私にとって,ビジネス系ロジシンにおけるロジカルって何だ?という疑問は,10年越しの疑問ということになります。
今回は現状認識だけにとどめておきますが,この疑問,近日中にすっきり答えが出るという見通しがあって書いているわけではありません。まとめながら,少しでも方向性が見えるといいなあと思っているところです。
*1:「コンサル系」「経営系」という言い方も可能でしょう
*2:というか,論理学系で「ロジカルシンキング」と表記されることはあまりなく,せいぜい「論理的思考」でしょう。「ロジカルシンキング」といえば,ビジネス系の文脈で使われることがほとんどではないでしょうか
*3:私も大学教員のはしくれですが,最近ビジネス系ロジシン本を何冊も読んで,ようやくその世界のことが多少見えてきた気がしています
*5:演繹の順序,時間の順序,構造の順序,比較の順序
*6:「なぜ?」「どのようにして?」「なぜそんなことが言えるのか?」
*7:モレもダブリもない正しい分類グループを作ること
*8:共通の特徴で分類された理由や問題や結論
*9:おそらくロジックツリーのこと
*10:あくまでも私にとって,ですが