ICUにおけるクリティカルシンキング教育
調べ物をしていたら,「リベラル・アーツ教育の根底を支えるクリティカル・シンキング〜クリティカル・シンキングによる授業展開とその成果〜」(国際基督教大学 富山真知子)という文章に行きあたりました。国際基督教大学のリベラル・アーツ教育を支える,クリティカル・リーディングやクリティカル・ライティング教育について紹介した文章で,4回に渡って連載されています。その概要をまとめておきましょう。
リベラル・アーツ教育では、思考を重視し、主体的に自らの学びを形成する自覚的学修者(intentional learners)を育成することが求められる(AACU*1)から、その根底を支える能力としてクリティカル・シンキングが欠かせないのでる。
〔中略〕
次回からは、国際基督教大学においてクリティカル・シンキングの実践が象徴的に行われている英語教育プログラム(English Language Program, ELP)の各コースを例にとり、その具体的授業展開を解説する。
http://www.icu.ac.jp/information/2007/critical_1.html
リベラル・アーツ教育って何なのか,よくわかっていなかったのですが,クリティカル・シンキングを通して自覚的学修者を育成するということだったんですね。
こうしたアカデミックスキルを実際に学ぶための課題をひとつ紹介しよう。それはReaction Journalと呼ばれるものである。学生は常にクリティカル・リーディングを実践しつつ読むことが促されているので、テキストは下線が引かれたり、ハイライトされたり、注釈が加えてあったり、ある部分が丸や四角で囲んであったり、余白に書き込みがあったりと「汚されて」いる。それでも余白には限りがあるので、いわば「読書日記」をつけるのである
http://www.icu.ac.jp/information/2007/critical_2.html
なるほど,これは典型的なクリティカル・リーディングの手法ですね(詳しくはないけど,たぶんそうだろうと思います)。そのうえで授業では,疑問や考えを発表し,ディスカッションするのだそうです。
1年次ELP*2における授業での800語の論証文作成の課題を例にとり(深尾、O’Connell、2006)少し具体的に見て行くことにしよう。学生はある共通テーマ(第2回参照)に関するリーディング、クラスでの討論、講義で仕入れた背景知識などを通してある程度の考えを形成した上で、まず主題文(thesis statement)を書くことを要求される。主題文とは中心となる自分の考え(論点)を一文で書き表したものである。次に資料の検索とアウトラインの作成を要求されるが、ここで学生は論点をサポートする証拠を集め、論をいかに展開し、構成していくかを熟考しなければならない。クリティカル・リーディングで発揮した技術や態度を今度は自ら作成しようとする論文にも向けなければならないわけだ。
http://www.icu.ac.jp/information/2007/critical_3.html
そのうえで,教師から個人指導を受けたり,学生同士で批評しあったりするそうです。後者はピア・レスポンスなどと呼ばれているものですね。またこれは,論文を作り上げていくプロセスを重視する,プロセス・ライティングと呼ばれるものだと思います(そういう意味でも典型的なクリティカル・ライティングの授業なのかもしれません*3)。
高校までの知識伝承型、暗記中心の教育を受けて来た学生にとって、クリティカル・シンキングはすぐさま身につくというものではない。しかしながら、入学直後からすべて英語で行われるELPでのクリティカル・シンキングの徹底したトレーニングにより着実に意識され、その意図が理解されて行く。
http://www.icu.ac.jp/information/2007/critical_4.html
以上です。こうやってみてみると,リベラル・アーツ教育でクリティカル・シンキングといっても,すごく変わったことをしているわけではなく,カリキュラムに筋を通し,ガイドラインを示し,教師や同級生からのフィードバックが得られるようにする,というぐらいのことのようにみえます。もっともそれを,非常に丁寧に,きちんと行っていくことが重要なのでしょう。
そしてこれが,他の授業(共通教育も専門教育も)ともリンクし,最終的には卒業研究にまで一本の線でつながるなら,とても大きな力を発揮するだろうなと思いました。